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施設の歯科検診へ行ってきました

先日、丹波篠山市の歯科医師会から、とある施設の歯科検診へ参加させていただきました。

ほとんど見学に近い状態で、あまりお手伝いできなかったので次回からはしっかりとお手伝いできればなと思っております。

以前働いていた病院でも思ったことですが、障害者施設のスタッフさんは一生懸命利用者さんの口腔内の状態を改善してあげたいという気持ちの強い方がたくさんいらっしゃいます。

もちろん、在宅でケアされているご家族さんも熱心な方が多く、少しでもご本人においしく食事をしてほしい、痛みが出ても自分では伝えられないので、しっかりと予防したいという気持ちがとても伝わります。

一方で施設の経営上の都合であったり、マンパワーであったりと本当に様々な障壁があり、口腔ケアが行き届いていないのが現状です。

では、どのようにすれば口腔ケアができるのでしょうか。

少し長くなりますが、今までの経験を踏まえて書いていきたいと思います。

とある施設の実際

まずは、施設の内情を知っていただけたらと思います。(すべての施設が下記のような状態ではないと思います。一部の施設の例と思って頂けたらと思います。)

とあるA病院では、利用者さんの口腔内の状態が悪く、当初病棟に入ると唾液と歯周病のにおいが充満しているような時期もありました。

この文章だけみると、なんて酷い病院だ!と思う方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、日々の業務が忙しく、急に利用者さんが不穏になり人手が取られることもあれば、体調を崩し、人手が足りなくなることもあります。

コロナの時期は病棟の隔離などで、お昼に食堂もつかえないスタッフもおられました。

更衣・洗濯・排泄交換・トイレ誘導・食事介助など様々な業務を少人数で頑張っておられます。

そのような状況は理解しつつも、少しでも口腔内の状況を改善したいと思い口腔ケアの時間を増やしてほしいとお願いすることも多々ありました。しかし体動のある方の口腔ケアは1人では中々きれいに出来ません。2人でケアしてほしいと伝えても、マンパワーが足りないと言われてしまいます。

私たちからするとたった2,3分しっかり磨いてほしいというだけなのですが、実際に介護にあたるスタッフからすると、2,3分×人数分になってしまうのです。50人いたら100分~150分です。

確かに2時間も口腔ケアにあてるなんて業務時間的に無理がありますよね。それを1日2回、3回となると、口腔ケア専属の人が必要になってきます。現実的ではありませんね。

では各病棟に歯科衛生士を配備すればよいのでは?と思われる方もいらっしゃるでしょう。

しかし、歯科衛生士は歯科医師の指示のもと動くという制約があります。

歯科衛生士単独では、保険点数を上げることはできません。そうなると歯科衛生士の人件費は病院側からすると丸々赤字になるわけです。もしくは歯科医師を雇い、歯科診療室を作るという方法もありますが、歯科医療機器は値段が高く、とても赤字を解消できるとは思いません。

人出不足で引く手あまたの歯科衛生士の人件費は年々高騰しております。なかなか裕福な施設でない限りは、簡単には配備できないとご理解ください。

歯科医師としての視点

そうは言っても、利用者さんにも人としての権利があります。日本国憲法に「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」としっかりと明記されています。

健康で文化的な生活を営むために口腔ケアは切っても切り離せない大切なものです。

しかし、どれだけお願いしてもスタッフ側からは「忙しいから無理」「やりたくてもできない」「そもそも口を開けてくれない」といった声が上がるのが事実です。

出来ないことを頭ごなしにやれと言っても、誰も動いてくれません。では、歯科医師として何ができるかを考える必要があります。

まず、障害を持たれている方に多く見られるのが、歯列不正です。歯並びが悪い方が多いのです。

先天的に歯が少ない、むし歯や歯周病で歯が無くなり残った歯が移動している、指しゃぶり等の悪習癖が残っている等様々な要因がありますが、歯並びがキレイな方は施設には少ない印象です。

更に口腔ケアに協力的でない、高血圧薬や抗てんかん薬、精神病薬等による副作用などの要素が加わり、歯垢や歯石が多くたまり、歯周病が進み、歯が揺れ、口腔ケアが更に難しくなっています。

自分の口の中でもしっかりと磨けている方と言うのは実は少ないのです。汚れが残っていて、歯科医院で指導を受ける方は少なくありません。

それを他人の、しかも体動のある方を磨くとなると難易度が跳ね上がります。これは障害を持った方に限らず、高齢者の介護にも当てはまると思います。

それを熱意をもって100%キレイにしたい!という願望があっても、自分の口の中ならまだしも、スペシャルニーズのある方の口の中を100%キレイにするという目標は、歯科衛生士を配備したとしても、現実的には難しいよねと言わざるを得ません。

しかし目標を高く持つことは悪いことではありません。

まずは土台を整えることを目標にする

では、口腔ケアを諦めるのかというとそうではありません。

まずはしっかりと口腔ケアをしやすい土台を整えてあげることが歯科医師としての務めだと思っています。

口の中の問題の一例
・歯垢、歯石まみれで磨いても変わらない
・触ったらすぐ出血し、磨くのが怖い
・歯が揺れていて、抜けたら嫌だ
・腫れているため触ると痛みがあり、利用者が動いてしまう

利用者個人の問題の一例
・自閉症などで見通しが立たないものは怖い
・感覚過敏があり、触られると過剰に反応してしまう
・目的を理解できず、不快なことをされたくない
・経管栄養の為、誤嚥するリスクが高く怖くてケアできない

環境の問題の一例
・口の中が暗くてそもそも見えていない
・安定した体勢で口腔ケアを行っていない
・スタッフが少なく、危険な状態でケアをしている
・口腔ケア用品の不足

様々な問題点があり、それぞれ解決していく必要があります。

お口の問題点について

まず、お口の中の問題についてですが、これは歯科医院にて歯科医師もしくは歯科衛生士によって口腔内の状態を整えていくことが大事です。

時間はかかりますが、利用者さんと仲良くなっていくこと、慣れていただくことで少しずつ口腔内をケアし、歯垢や歯石をとり、お口の中の状態を整えていきいます。歯周状態を改善することで、触られても大丈夫、痛くないといった思考になれるように誘導していきます。

高血圧薬や抗てんかん薬等で歯肉増殖している方は、主治医に薬の変更等も打診しなければなりません。

口腔内の状態がきれいになれば、日常でケアをする側も、腫れている・汚れているといった変化がわかりやすくなるのも利点です。

利用者さんの問題点について

次に利用者さん個人の問題も解決しなければなりません。見通しがわからなくて不安な人には、やることを説明もしくは絵カードで見せることで、見通しが立つようにしてあげます。

感覚過敏がある人には、いきなり口の中を触るのではなく、口から離れた手や足などから触れ、少しずつ正中に近づいていきます。焦らずマッサージをしてあげることで安心する方もいらっしゃいます。

目的を理解できなければ、わかりやすい目的に変えてあげればよいでしょう。例えば歯磨きはしんどいものと思ってしまえば口は開けてくれません。歯磨きは美味しいもの、楽しいものと思っていただければどうでしょうか?歯磨き粉の味には様々なものがあります。好みの味がきっと見つかると思います。
うがいができないから歯磨き粉は使えない!という方もおられるでしょう。
その場合、歯磨き粉をペーストタイプではなくジェルタイプに変えることをお勧めします。発泡しないため、ふき取りも簡単ですよ。

利用者さんの中には原始反射が残っており、歯ブラシや指を入れると噛んでしまう方がおられます。そのような場合には、バイトブロックを使う等、ケアする側が怪我をしないような配慮も必要ですね。

利用者さんごとに、安心して口を開けられる環境や体勢があります。ベッドの上が良いのか、車いす又はバギーの上が良いのか、フロアで寝ころぶのが良いのか、男性スタッフがよいのか、女性スタッフが良いのか、周りに人がいる方がよいのか、いないほうが落ち着くのか。

てんかん発作がある場合は、どのような刺激で発作が起こりやすいかを知っていると少しは安心ですね。光や音、痛みなどが刺激になり発作が起きることもあります。

様々な条件がありますが、少しでも利用者さんが落ち着ける状態を探してあげてください。

また誤嚥の可能性が高い場合は、吸引器付き歯ブラシを使用する、顎が上がらない体勢でケアするなど考慮する必要があります。

環境の問題について

まずは、口の中が見えないといった状態はとても危険です。歯石が割れてのどに詰まる・歯が抜けて誤嚥する・薬が口腔内に残っており潰瘍を形成している等様々なトラブルの原因となります。

「しっかりとお口の中を見て、汚れている部分をケアする」為には、お口の中が見える明るい部屋、もしくはライトを使ってお口の中を照らすといった事が必要になります。

また手が出る方や、体動のある方は寝ころんだ姿勢や椅子にしっかりと腰かけた状態で身体を安定させることも必要です。歯ブラシで喉をつく事故の防止や、口の中をしっかり見るためには必要です。

これらの事を考えると、やはり2人以上で1人の利用者さんの口腔ケアを行うことが最終的には安全に短時間でキレイに磨くためには必要になってくると思います。

スタッフ教育を行う

土台をしっかりと整えたうえで、次にスタッフ教育を行っていきます。

汚れており、磨かなくてもわからない → 腫れていたいので利用者も拒否する → 大変なので磨かない → 更に痛くなり拒否が強くなる

といった悪いサイクルのまま放置するのではなく、

きれいな状態を維持する → 痛くないので利用者も拒否が少ない → 術者が磨きやすいのでキレイな状態が維持される

といった良いサイクルに持っていくことができると、介護する側もされる側も楽になりますね。

この良いサイクルをさらに良くするために、しっかりと口腔ケアの知識を身につけることで、技術があがり、短時間のケアでより良い状態を保つことができます。

この状態までもっていくのには年単位でかかりますので、根気よく続けていくことが大切です。

歯科医院でできること

私たちは、来てくださった方のお口の中の状態をある程度整えることは可能です。しかし歯周病というものは日々の口腔ケアがとても大切です。

日々の口腔ケアをおろそかにしている状態で、歯科受診を繰り返してもなかなか状態は良くなりません。私たち歯科医院スタッフだけでなく、施設の皆様と協力することで、利用者さんのお口の状態を改善できると考えております。

また年齢によっても変わります。小さいころから歯科受診していれば、それが当たり前と受け入れてくれますが、高齢になるまで歯科受診をしたことがない方だと、治療の受け入れが困難な状況も多々あります。

「もりさき歯科医院」ではできる限りご協力したいと考えておりますが、場合によっては全身麻酔が必要な場合もございます。状況によってご紹介することもありますので、ご理解ください。

どうすれば、口腔ケアがやりやすくなるかというのは個々に性格が違うように、やり方も変わってきます。少しでもお手伝いができればと考えております。

お困りの方がおられましたら、一度当院までご相談ください。